2020年7月15日更新
『組織変革のビジョン』(金井 壽宏,光文社新書,2004年8月20日発行)を読了。
アイデンティティの心理学を語った E・H・エリクソンの残した概念的遺産のひとつは,言うまでもなく「アイデンティティ・クライシス」である。また,彼の漸成説と言われる生涯発達学説における発達の第一の節目,そもそも人生の始まりにある発達と美徳が「基本的信頼」と「希望」だ。(p. 4)
人生の始まりとは,一体何か。
情熱や使命とともに,将来を展望するビジョンは,このような希望というものと,非常に相性のいい言葉だ。「そこに行きたい」という熱い気持ちや情熱(パッション),「なぜそこに行きたいのか」を語る使命(ミッション)や夢,「そこにたどり着けばどのようなところなのか」を目に見えるように(ビジュアルに)描いたビジョン,「そこに行ける」という自信と勇気,「どうしたらそこに行けるかを示す」シナリオやステップ(足取りの展望)を持って進んでいきたいものだ。(p. 5)
まずは情熱,そして使命,それを具体的に達成する道すじを描いていく。
夢に向かっていくビジョンが絶えてはいけない。かつてビジョンという名の作文に疲れたひとは,作文ではなく夢を実現するよすがとしてビジョンを持って語ろう。ビジョンだけでは広すぎてことの本質を捉えていないと思えるようなら,もっととぎすましたビジョンを描こう。(p. 21)
ビジョンを語ることができるように,夢を持つ。
組織はじつはポリティカル(政治的)なシステムだという考えに立つひとがいる。組織をどこに向かっていくかは経営トップ(神々)の争いで,神々が目的,ミッション,ビジョンを決める。それらが決まったあとが,法律で判断し実施していく行政学に近い世界になる,という。(p. 24)
組織の経営トップは,必ずしも正しい判断をしないこともある。
しかし,経営トップの判断は,神々の判断として,それが正しくなってしまう。
「わたしは,米国民が 60 年代の終わりまでに人間を月に到着させ,そして安全に地球に生還させるという目的の達成に言質を与えるべきであると確信する。単独の宇宙計画で,これほど興奮を呼び起こす感動的な計画もなければ,これほど重要な計画もない。また達成がこれ以上困難で,多くの財源を必要とする計画もないであろう」 by J・F・ケネディ(p. 216)
アポロ計画のような,困難だけれども,人々に希望をもたらす計画はないのか。
どんな組織にしたいのか,どんな姿を目指すのかは,やはり言葉で表現しなければならない。聖書に「初めに言葉ありき」とあるように,「ビジョンに言葉ありき」といえる。黙っていても行動と背中を見ていれば分かるという面もあり,そのことは否定はしない。しかし,思いを「言語化」できることは,変革や運動のリーダーシップを執るうえで重要なことだ。(pp. 217 - 218)
言葉がなければ,人には伝わらない。まずは,言葉で語れるようにしよう。