Masassiah Blog

現役サラリーマンのスキルアップのための読書まとめ

教養としての社会保障 香取 輝幸

2021年3月10日

『教養としての社会保障』(香取 輝幸,東洋経済新報社)を読了。

近代資本主義と民主主義の枠組みの中で,社会の安定がなければ資本主義も成長していかない,持続できない,という考えから,第二次世界大戦後に福祉国家の理念の下に生まれたのが現代の社会保障です。(位置 No. 282)

資本主義の成長,持続の大前提は,社会の安定。
社会の安定をもたらすために生まれたのが,現代の社会保障である。

合理的無知*1ということがある限り,社会保障のようにミクロとマクロに大きな乖離のある制度は,そもそも理解を求めること自体にかなり無理がある,という宿命を背負わされています。みんながみんなインテリじゃないからね,ということになってしまうのです。(位置 No. 426)

無知な人たちをどう取り扱っていくのが,よいのか。
今日の野党やマスコミを見ていると,無知な人たちの不安を煽っているだけにしか見えない。

よく,社会保障は「自助・共助・公助の組み合わせ」と言われます。たしかにそのとおりですが,この自助・共助・公助は単に並列で存在しているものではありません。それこそ「教科書的」にお話すれば,

「すべての国民が社会的,経済的,精神的な自立を図る観点から,

  1. 自ら働いて自らの生活を支え,自らの健康を自ら維持するという「自助」を基本として,
  2. これを生活のリスクを相互に分散する「共助」が補完し,
  3. その上で,自助や共助では対応できない困窮などの状況に対して(略),受給要件を定めた上で必要な生活保障を行う公的扶助や社会福祉などを「公助」として位置づける。」(位置 No. 526)

「自助」が基本で,「共助」が補完し,さらに「公助」がある。
まずは,自ら働いて自ら生活を支え,自らの健康を自ら維持するという当たり前のことをやっていけばよい。

社会保障という形で,所得を再分配することが社会全体の安定につながるから,この制度がある。そこが社会保障という制度を理解するのにもっとも重要なポイントです。社会保障は,単なる所得の分散ではありません。(位置 No. 627)

「自助」のみで生きていくことができる人にとって,社会保障にどのような価値を見出せばよいのか。

一人ひとりの人間が現状に甘んじて,昨日と同じ生活ができればいいと考えていたら社会は発展しません。みんなが新しいことに挑戦して次々と前へ進んでいく。一人ひとりの人間が能力を発揮する,ということの Σ (シグマ,総和)が社会の活力であり,その活力が社会を発展させるのです。(位置 No. 657)

みんなが新しいことに挑戦して次々と前に進んでいく,その総和が社会の活力。
日本の活力が失われているように感じるのは,みんなが新しいことに挑戦していないからだろうか。

一人ひとりが老後の生活で必要なコストを社会全体で賄うことで,過剰貯蓄をもっとも合理的に小さくしようとしているのが年金制度です。実体としては,日本の高齢者は諸外国と比して過剰貯蓄の傾向が大きいのは事実ですが,年金制度がなければ,誰もが老後に備えてもっと過剰な貯蓄を始めますから,今以上に消費が減少し,経済はもっとも大変なことになります。そんな愚かなことをしなくても済むように,年金制度があるわけです。(位置 No. 1206)

これだけを読むと,過剰貯蓄は愚かなことに感じてしまう。
一方で,年金制度に不安を感じ,過剰に貯蓄したくなるという気持ちも理解できる。

若い世代の所得が増えないと,結婚もできない,子どもも産めない,自分の人生,将来に希望が持てない。それでは社会全体の活力が失われます。将来に対する不安や諦感のある社会は停滞してしまいます。(位置 No. 1305)

若い世代の所得を増やすことには,異論はない。
若い世代が,将来に希望を持てない社会であってはならない。

資本を持っている人の収益 r (資本収益率)に,労働者の賃金 g (経済成長率)に見合って成長する。r は g よりも大きいので,資本を持っている人のところによりカネが集まってきて,ますます富む。(位置 No. 1396)

資本で資本を増やしていくことができるようになれば,お金に対する不安は小さくなる。

大きすぎる財政赤字は,もう一つ弊害を生みます。財政赤字が大きいということは,政府には歳出削減圧力が非常に大きく働くということです。おカネがないから新しいことができない。様々な問題に対処しようと思っても,新たな政策課題に取り組もうと思っても,先立つものがない。おカネがないから,政策選択の幅が狭くなる。手札が制限され,政府の問題解決能力が低下する。事態はどんどん悪化する。悪化すればするほど解決のコストは高くなる。ますます対処できなくなる。

財政赤字は政府の政策遂行能力を奪い,世の中を悪くしていきます。(位置 No. 1747)

歳出削減は必要なことだが,課題を解決するための歳出まで減らしてはならない。

太古の昔から,国内で不満・不安が高まって社会が不安定になると,為政者は外に敵をつくったり,誰かを生贄にして不満をそらそうとします。排外主義,保護主義,狭量な民族主義,移民排斥,異文化への敵意・憎悪。犯人探しが人々の心の闇を支配するようになり,それを煽り立てる勢力が権力に近づいていきます。(位置 No. 2157)

 日本国内の不満・不安が高まっているから,外に敵(周辺の国々)をつくったり,誰かを生贄(枚挙に暇がない)にしているのだろうか。

ポピュリズムの政治家は一点突破,全面展開を目指します。うまくいかないのはこいつのせい,悪いのはこいつ,こいつを退治すればあとはすべてうまく,というような幻想を社会に振りまきます。しかし,そんなことはありません。これだけ複雑になった社会では,問題解決には時間がかかるし,手間もかかります。一点突破ですべてが解決することはありません。確実に,一つひとつを積み上げ,全体の改革につなげていく。それことが本当の改革なのだと思います。(位置 No. 2443)

一点突破ですべてが解決するほど,世の中は単純ではない。

コミュニケーション能力とは,「意見の異なる人たちと議論をしながら合意形成をしていく能力」のことであり,要素分解すれば,

「人の意見を聞く能力」+「自分の意思・意見を人に正確に伝える能力」=「言論による合意形成~人を言論で説得する能力」

と表現することができます。(位置 No. 3413)

私にできることは,コミュニケーション能力を高めて,世の中の課題に挑んでいくこと。

教養としての社会保障

教養としての社会保障

 

*1:「合理的な選択」として小難しい政治や経済の話には関心を払わない,無知のままでいる,という選択をすること。