『スマート・イナフ・シティ――テクノロジーは都市の未来を取り戻すために』(ベン・グリーン 著,中村健太郎/酒井康史 訳,人文書院,2022年8月)を読了。
一見ちょっとした技術革新で解決できそうな問題の中心にこそ,複雑な政治的・構造的問題が横たわっている――何年にもわたって課題に取り組んできた人々が,よく私に教えてくれたことだ。還元的で解決主義的なアプローチのために,価値観やトレードオフにかかわる深い問題を見落としてしまう傾向は,技術者の多くが陥る盲点の一つである。(位置 No. 47)
技術一つで解決できるほど,世の中の問題は単純ではないことが多い。
本書は,破壊的テクノロジーという単純な魔法で都市を再編成するという,夢みがちな都市イノベーターたちの神話を打ち砕く。それは,都市をスマートにすることをビジネスにしている人々への警告であり,道しるべでもある。技術者は,優れた技能と慎重なプログラム設計を統合し,同時に都市生活の複雑さと矛盾を共感を持って受け入れることによってのみ,都市に大きなプラスの影響を与えることができる。長年の都市課題に対する新たな解決策,それが発明される可能性に対して楽観的な我々のような人間にとって,本書は新たな意見と思慮深い前進の道をもたらすものになるだろう。(位置 No. 77)
銀の弾丸ではなくても,都市を良くするために弾丸を打ち続ける。
テック・ゴーグルの根本的な問題点は,そもそも複雑な社会問題に対するあざやかな解決策などというものは,たとえ可能性があったとしても,ほとんど存在しないということにある。(位置 No. 228)
この問題点は,よく認識しておこう。
スマート・イナフ・シティを受け入れる人々は,都市を最適化すべきものとして見るのではなく,政策目標を最優先し,人々や制度の複雑さを認識しながら,彼らのニーズをよりよく満たすにはどうすればよいのかを包括的に検討する。(位置 No. 375)
包括的に検討するために,懐を広げておこう。
テック・ゴーグルを介することで,我々は,民主的な意思決定と市民参加における根本的な限界――権力,政治,公のモチベーションと能力――を,非効率性と情報不測の問題だと見誤ってしまう。(位置 No. 1120)
効率を上げて,情報を提供したとして,民主的な意思決定と市民参加はどれだけ達成されるだろうか。
AI という言葉に新たな解釈をもたらしている。「人工知能(Artificial Intelligence)」ではなく,「格差の自動化(Automating Inequality)」だ。(位置 No. 2507)
格差の自動化に対して,私はどう立ち向かうか。
ワイアード誌が「データの洪水によって科学的方法は時代遅れ」になり,「理論の終焉」が訪れると約束したのは有名だ。しかし無限ともいえるデータの時代にあって,むしろ理論の重要性はかつてないほど高まっている。(位置 No. 3517)
データの洪水を泳ぐには,理論を身につけておかねばならない。