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現役サラリーマンのスキルアップのための読書まとめ

国家の品格 藤原正彦

2020年5月12日更新

国家の品格』(藤原正彦*1新潮新書,2005年11月20日発行)を読了。

  • 第一章 近代的合理精神の限界
  • 第二章 「論理」だけでは世界が破綻する
  • 第三章 自由,平等,民主主義を疑う
  • 第四章 「情緒」と「形」の国,日本
  • 第五章 「武士道精神」の復活を
  • 第六章 なぜ「情緒と形」が大事なのか
  • 第七章 国家の品格

数年間はアメリカかぶれだったのですが,次第に論理だけでは物事は片付かない,論理的に正しいということはさほどのことでもない,と考えるようになりました。数学者のはしくれである私が,論理の力を疑うようになったのです。そして,「情緒」とか「形」というものの意義を考えるようになりました。(p. 4)

論理的に正しくても,物事はうまくいかないことがある。

どんな論理であれ,論理的に正しいからといってそれを徹底していくと,人間社会はほぼ必然的に破綻に至ります。言うまでもなく,論理は重要です。しかし,論理だけではダメなのです。どの論理が正しくて,どの論理が間違っているかということでもありません。これは,日常用いられるすべての論理に共通した性質です。(p. 35)

論理的正しさだけを追求していても,人間社会は破綻する。

初等教育で,英語についやす時間はありません。とにかく国語です。一生懸命本を読ませ,日本の歴史や伝統文化を教え込む。活字文化を復活させ,読書文化を復活させる。それにより内容を作る。遠回りでも,これが国際人をつくるための最もよい方法です。(p. 42)

音読は一日一回はやりたい。
声に出して読むことが大事。

しかし現実の世の中に,公理系というものは存在しません。各人がみな違う公理系を持っているようなものです。受けた教育,家族関係,住んだ地域,育った環境,年齢,性別,何から何まで違うので,公理系は十人十色です。数学のようにはいかない。(p. 54)

公理がなければ,論理が成り立たない。

「自由とは面倒なものである。終始あれこれ自分で考え,多くの選択肢の中から一つを選ぶという作業をしなければならないからである。これが嵩ずると次第に誰かに物事を決めてもらいたくなる。これが独裁者につながる」(精神分析学者エーリッヒ・フロム)(p. 78)

自由であるためには,一つずつ選んでいく作業を積み重ねるしかない。

国民が国をリードすることはあり得ない。これはいかなる国でも永遠に,能力的に不可能です。なのに主権在民金科玉条になっているのです。(p. 88)

国民が国をリードすることができないことを認めて,ビジョナリー集団をつくり,国の行く末を決めてもらう。
ビジョナリー集団は選挙によらないので,その場限りの人気取り政策ではなく,真に国を思う政策を考えてほしい。

民主主義にはもちろんきちんとした論理は通っていますが,「国民が成熟した判断ができる」という大前提は永遠に満たされないこと,その本質たる自由と平等はその存在と正当性のために神を必要とすること,という致命的とも言える欠陥があります。(p. 92)

2016 年は「国民が成熟した判断できない」ということが示されたターニングポイント(英国の EU 離脱国民投票)の年になるかもしれない。

自然への繊細な感受性を源泉とする美的情緒が,日本人の核となって,世界に例を見ない芸術を形作っている。「悠久の自然と儚い人生」という対比の中に美を感じる,という類まれな能力も日本人にはあります。(p. 99)

永遠の中で,自分の人生の儚さを本能的に知ることができる能力。

数学をやる上で美的感覚は最も重要な要素です。偏差値よりも知能指数よりも,はるかに重要な要素です。(p. 141)

美しいか,美しくないかはとても大事な要素。
どんなことをやるにしても,美しさを忘れてはいけない。

私がことあるごとに「外国語にかまけるな」「若い時こそ名作を読め」と言っているのは,私自身の取り返しのつかない過去への悔恨もあるからです。小中学校では古典的名作をだいぶ読みましたが,大学,大学院,若手研究者の時代には数学に没頭していたから殆ど読めず,名作に戻ったのは 30 代後半からです。無論,大量に読む時間的余裕はなかったし,若者特有の感性もかなり失っています。若い時に感動の涙とともに読むのが何と言っても理想です。情緒や形を育てる主力は読書なのです。(p. 147)

若いころに名作を読めていない。今からでも,可能な限り名作を手に取る。

「人間の命は地球より重い」などという言葉が垂れ流されていますが,本当は人間の命など吹けば飛ぶようなものです。果てしない宇宙の一点,真っ暗闇の中の一瞬の閃光のごときものです。かくも軽く儚いものだからこそ大事にしよう,というのが正しい見方です。(p. 152)

儚いからこそ,大事にしようというのが命の正しい見方である。

人間が時代とともにどんどん賢くなれば,戦争はいつかやめることができます。しかし,人間としての賢さとか知恵は,そのまま後の世代に残りません。だから英国の歴史家トインビーが「人間とは歴史に学ばない生き物である」と皮肉ったのです。(pp. 153 - 154)

人間の時代が始まり数千年,いまだに戦争はなくならない。

アインシュタイン特殊相対性理論は,アインシュタインがいなくても 2 年以内に誰かが発見しただろうと言われています。数学や自然科学の発見の殆どすべてには,ある種の必然性が感じられます。ところがラマヌジャンの公式群は,圧倒的に美しいのに,必然性がまるで分らないのです。(pp. 168 - 169)

直感がそれを発見させたのか。

それでは日本はどうでしょうか。この三つの条件を見事に満たしています。まず,日本には美しい自然がある。第二に,神や仏や自然に跪く心がある。それから三番目に,役に立つものとか金銭を低く見る風土がある。(p. 175)

日本でも未知なる美しいものが見出される可能性は十分ある。

国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)

  • 作者:藤原 正彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/20
  • メディア: 新書
 

 

*1:1943(昭和18)年生まれ。お茶の水女子大学理学部教授。数学者。作家・新田次郎藤原ていの次男。『数学者の言葉では』『若き数学者のアメリカ』『遥かなるケンブリッジ』など著書多数。