「交易によってすべての市場参加者の富が増えていく」という古典派経済学の基本原理は,人間の本能と対立するために,洋の東西を問わずほとんど理解されることがない。(53 ページ)
「交易によってすべての市場参加者の富が増えていく」というのは,私は腑に落ちる。
私たちがつねにものごとを因果論で考えるのは,それが正しいからではなく,脳が世界を因果論的に解釈するようにできているからだ。ヒトは,原因と結果が結びつかないと「わかった!」とは思えない(腑に落ちない)。そしてこれは,人間だけでなく,生物そのものの基本原理なのだ。
だがここに,ひとつ重大な問題がある。
脳にプレインストールされた基本プログラム(OS)が因果律だとしても,世界が因果律でできているとはかぎらないのだ。(73 ページ)
私も因果論で考えがち。世界が因果律でできていないことを理解し,因果律のバイアスを取り払う。
これまで人類は,文学や音楽,映画などで男と女の「愛の不毛」を繰り返し描いてきた。しかし進化心理学は,あなたが恋人とわかり合えない理由をたった一行で説明してしまう。すなわち,「異なる生殖戦略を持つ男女は "利害関係" が一致しない」のだ。(77 ページ)
男女の利害は一致しないのだから,わかり合えるはずはない。
農耕社会の政治的決断が,妥協による全員一致以外にはあり得ないのだ。(110 ページ)
農耕社会では,妥協による全員一致が実現できたかもしれないが,国家の大きさになると妥協による全員一致は難しくないかな。
ほとんどの日本人は誤解しているが,アメリカ企業の能力主義は,利益を最大化するための仕組みではない。それは,「能力以外で労働者を差別してはならない」というグローバル空間のルールのことだ。(222 ページ)
能力主義は,能力という物差しで労働者を測るだけのもの。
政治哲学の四つの正義(236 ページ)
- リバタリアニズム=自由
- リベラリズム=平等
- コミュニタリアニズム=共同体
- 功利主義=進化論的な根拠を持たない正義
意思決定の三つの方法
- 全員一致の妥協
- ルール原理主義
- 独裁
政治哲学の四つの正義と意思決定の三つの方法を,うまく使い分けよう。
東條は,「生きて虜囚の辱を受けず,死して罪禍の汚名を残すこと勿れ」という「戦陣訓」を示達した当人であり,その "軍人の鑑" が自決に失敗して敵の囚人になったことに日本じゅうが愕然とした。(238 ページ)
一言でいうなら,カッコ悪い,だろうか。
日本では,いったん「責任」を負わされ,スケープゴートにされたときの損害があまりにも大きいので,誰もが責任を逃れようとする。その結果,権限と責任が分離し,外部からはどこに権力の中心があるのかわからなくなる。このようにして,天皇を "空虚な中心" とする,どこにも「責任」をとる人間のいない奇妙な無責任社会が生まれたのだ。(246 ページ)
責任という言葉で,背負わされるものは大きすぎる。
ネットオークションが大きな成功を収めたのは,出品者にモラルを説教したためではなく,道徳的に振る舞うことが得になるような制度を設計したことにある。(354 ページ)
道徳的に振る舞うことが得になる制度をつくれば,社会は変わるだろうか。
(現在は,道徳的に振る舞わない方が,得をする社会だと,私は思っている。)
本書で述べたように,私は「日本が変わる」ことに楽観的な見通しは持っていない。日本社会の停滞には構造的な原因があり,政治家も官僚も与えられた条件のもとで精いっぱいのことをやっている。こうした見方が気に入らないひともいるだろうが,「失われた 20 年」を冷静に振り返るなら,説教や批判になんの効果もなかったことは明らかだ。(390 ページ)
失われた 20 年は,失われた 30 年になってしまった。
日本社会から,時は失われ続けるのだろうか。
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*1:かっこにほんじん