『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』(梶山三郎,小学館,2019年10月4日)を読了。
社内では変人扱いで,「葬式好きの武田」と揶揄されたが,親しい知人にはこう明かしている。
「葬式の時間は会社のデスクに座っているよりずっと有意義。いろんな人間と知り合いになれるし,わざわざ来てくれた,ということで親しく会話もできる。葬式に勝る人脈構築の場はない」(位置 No. 416)
葬式は人脈構築の場である,というのは初めて聞いた。
「トヨトミの敵はトヨトミです。わたしが社長に就任する以上,お公家集団のぬるま湯は許しません。社員諸君はなにも変えないことがもっとも悪いと気づいてほしい。現状維持はイコール堕落です。改革に意欲のない頑迷固陋な守旧派はせめて仲間の足を引っ張らないよう,邪魔をしないでいただきたい」(位置 No. 911)
現状維持はイコール堕落であることを気づかせる。
「特別な才能のない人間は潔く勤め人になるしかないんだよ。圧倒的な強者に仕えて禄を食む。いつの時代も変わらぬ人間社会のルールだ」(位置 No. 1153)
私も,圧倒的な強者に仕えて禄を食む,という人間社会のルールに従って生きている。
「クルマは麻薬だ」
己の言葉がどこか遠くで聞こえる。
「一度,手にしたら手放せなくなる。悪魔のような利便性にどっぷり浸かり,抜け出せなくなる。みな,古くなったら買い換える。新しいものが欲しくなる。クルマと麻薬は同じだ。中国もインドもロシアも,広がる市場は無限だ。おれはクルマという強烈な麻薬を世界中に広めてやる」(位置 No. 1362)
「電力は麻薬だ。一度,手にしたら手放せなくなる。悪魔のような利便性にどっぷり浸かり,抜け出せなくなる。」
露骨なおべっか使いは論外。弁の立つイエスマンも不可。望むべき人間像は的確な意見を示しつつ,自分のために汗をかいてくれる人間だ。(位置 No. 1414)
強者に対しても意見を示し,強者のために汗をかく。
「メーカーの技術屋はとにかくカネを使う。悪気なく使うから始末が悪い。頭ごなしに怒ることもできない。カネの使いすぎだ,と注意するととたんにモチベーションが落ちて,研究開発現場の士気に影響してくる。困ったもんだ」(位置 No. 1836)
士気を下げずに,カネの使い方を改めさせるのは難しい。
「技術者が高度成長期の思考のまま,薔薇色の未来の夢を描いてバカげた投資を強行し,業績は急降下。経営者が慌てて投資を絞っても後の祭り。現場の士気はとたんにダウンし,魅力的な商品がまったく出なくなるという,地獄のような負のスパイラルに陥ってしまったんだな。つまり,カネと志,消費環境のバランスがとれていなかったということだ」(位置 No. 1846)
カネ,志,消費環境のバランスを見極め,負のスパイラルから抜け出す。
「最初から甘いことを言うと,技術屋はその気になってマイペースでのんびりやるからな。ガツン,と蹴飛ばし,シャブ中の犬っころみたいに突っ走らせて,体力気力を全部絞り切ったところで温情を見せる。すると感激してリセットし,ますます頑張るってわけだ」(位置 No. 2359)
ここぞ,というときに温情を見せる。
「官僚ごときが民間人に勲章で差をつけるとはちゃんちゃらおかしい,叙勲制度は思い違いもはなはだしい時代錯誤のガラクタ,官僚は恥を知れっ」(位置 No. 3231)
叙勲制度は時代錯誤のガラクタというのは,なるほどと思う。
「国が率先して優秀な若い外国人を招き,集中的に教育を施す等,大胆な移民政策をとらない限り,国力は衰退する一方です。このままでは近い将来,日本は間違いなく終わります」(位置 No. 3391)
移民政策も一つの方法であるが,移民を受け入れることの反動もある。
リーダーのあり方(位置 No. 5558)
- ビジョン・哲学・信念
- 人望・ネットワーク
- 人使いの巧さ
- 度胸・勇気
- 迅速さ
リーダーとして,ビジョン・哲学・信念をしっかり持つ。
終身雇用・年功序列を前提とした新卒一括採用は,もはや個人の才能を引き出せないシステムと化した。個人レベルではそのことを理解しているのに,組織として変えられない状態が 20 年以上も続く。中途半端なインセンティブシステムと,中途半端な抜擢人事。人事制度を根本から見直さなければいけない時が来ている。いや,遅すぎるくらいだ。(位置 No. 5582)
少しずつ人事制度は見直されているが,個人の才能を引き出せるレベルには至っていない。
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