『笑うマトリョーシカ』(早見和真,文藝春秋,2024年6月20日)を読了。
新調したばかりの革張りのチェアに深く腰かけたまま,壁の額に視線を移す。金縁のそれに収められた『生者必滅会者定離』の文字は,地元・愛知県愛南町出身の書家に記してもらったものだ。
「生きる者は必ず死に,出会った者は離れることが定め」
たとえそれが死別であったとしても,生き別れであったとしても――。そんなことを示した仏語に,これまで何度救われてきたかわからない。(5 ページ)
「生きる者は必ず死に,出会った者は離れることが定め」というのは,当たり前のことではあるが,普段は忘れがちなことでもある。
「未来を思い描くこと。大いなる理想を抱いて,でも絶対に予断を持たず,常に未来を想像し続けること。それが政治家という人間に課せられた唯一の仕事」(53 ページ)
「未来を思い描く」という唯一の仕事を果たしている政治家はどれほどいるか。
期待していた弁論系のサークルを早々にやめ,家庭教師のアルバイトも長続きせず,一年生の頃は実家からの仕送りをやりくりしながら本ばかり読んでいた。
とはいえ,それは高校生の頃のような将来を見据えた体系的な読書ではなく,ただ惰性で文字を追いかけるだけの,血や肉にならないものばかりだ。(114 ページ)
将来を見据えた体系的な読書もいいが,惰性で文字を追いかけるだけの読書もいい。
当時の大学生の中にはある種の憧れを抱きながら,「27 歳で死んだ天才たち」の話を口にする者がいた。夭折したから過大評価されているかもしれないという視点を忘れ,無批判に彼らをもて囃す風潮を僕はあまり好きになれなかった。(117 ページ)
27 歳になる前と後では「27 歳で死んだ天才たち」への見方が変わる。
「夫が成功すると,どういうわけか妻の方が増長して,この成功は自分のおかげだと思い込むようになる。すると,途端にプロデューサーみたいな顔し始めて,旦那の権利とかを主張するようになったりする。で,それをおもしろく思わない夫がチヤホヤしてくれる若い女に走るんだ。これはもう見事にそういうふうにできている」(155 ページ)
妻が増長するから,夫は若い女に走る,というのはありがちなこと。
「僕には嫉妬こそが世界を狂わせるという持論があります。嫉妬が束縛を生んで,その束縛が憎しみを生み,憎しみが戦争を生むのだと若い頃から考えていました」(188 ページ)
世の中を狂わせる根源は「嫉妬」というのは面白い。
はじめて足を踏み入れる土地の印象はその日の天候に左右されるという持論が香苗にはある。つまり心持ち次第で本質を見誤るということだ。自分の見る目を過信しない。自分の考えを信用し過ぎない。記者として香苗がいつも心がけていることの一つである。(224 ページ)
天気は変わるものということを忘れ,その土地の印象を織りなす。
出世する政治家に必要な特性を一つだけ挙げろと言われたら,地盤や金ではなく,カリスマ性や政策立案能力でもなくて,私は「体力」と答えるだろう。どんなに大変な状況に叩き込まれたときも,清家は疲れた様子を絶対に見せない。たとえ私の前であったとしても,それこそ機械や人形のようにいつも同じ笑みをたたえている。(298 ページ)
政治家に限らず,出世するときに必要な特性は「体力」なのかもしれない。
「政治家というものは……,いや,優秀な政治家というものはおしなべてペルソナを被っているものです。有権者からどれほど清廉潔白に,あるいは豪放磊落に見られていたとしても,それは結局そう見せたい自分を演じているだけのこと。被っている仮面をはがしてみたら,まったく違う顔が出てくるなんてことがザラにあります。本人が仮面を被っていることを忘れてしまうくらい,それはもうみんな見事にその役に徹しています」(319 ページ)
仮面を被り続けているうちに,仮面が素顔になってしまう。
『マニピュレーター。日本語に訳すなら,そうですね,「他人の心を操る人」という感じになるでしょうか。心理学の世界で用いられ始めた用語ですが,まぁ,あなたに詳しく説明する必要はないでしょう。浩子という女性そのものです』(394 ページ)
他人の心を操るマニピュレーターのスキルを知っておこう。
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