『ネメシス*1の使者』(中山七里,文藝春秋,2020年2月20日)を読了。
いつも思うことだが,何故組織の上に立つ者は高い場所にある部屋を好むのだろう。<馬鹿と煙は高いところが好き>という言葉を知らないのだろうか。(位置 No. 453)
私が勤めている会社の役員室は,高い場所にある。
「母親だから無条件に子供を愛するなんて,ファンタジー以外の何物でもありませんよ。現に俺の母親は父親の召使いみたいなもので,俺が父親の命令に従っているかどうかを監視しているだけの存在でしたからね」(位置 No. 579)
母親と父親,子供との関係は,多種多様。
最近内閣府が発表した<基本的法制度に関する世論調査>で,国民の八割以上が死刑制度を容認しているという結果が出ている。逆に死刑廃止を唱えた者は一割にも満たなかった。だが一方,世界の潮流は間違いなく死刑廃止に傾いている。2007年5月には,国連拷問禁止委員会が日本に対して死刑執行停止を求める勧告までしている。(位置 No. 643)
なぜ,日本では死刑制度を容認する人が多いのだろうか。
この少年は突然襲ってきた災厄に対して無力だった自分に落胆し,絶望している。幼少期の劣等感は誰しも持つものだが成長するとともに解消されていく。劣等感の対象よりも己の成長が著しいからだ。
しかしその対象が死者となれば話は違ってくる。
死者は無敵だ。
どんなに自分が成長しようと,どんなに賢くなろうと,死者はそれ以上の存在として君臨し続ける。(位置 No. 796)
2023年現在,私の劣等感の対象には,死者はいない。
「甲子園に言ったヤツらだけが名選手じゃありません。プロになれるかどうかなんて結局は運だけですよ」
またこの言説か,と渡瀬は興味を失う。能力のない者に限って,自分の力不足ではなく運のせいにしたがる。(位置 No. 1804)
実力がなければ,運だけでどうにかなるようなものではない。
「いくら本人の更生を図る上でも,徒に軽い刑罰で済ますのは温情じゃないと思うんだけど……」
「激しく同意。よそじゃ,こんなこと口が裂けても言えないけど,俺たち心理技官が束になっても,指導教官がどれだけ心を砕いても更生できない犯罪少年とかいるからね」(位置 No. 2298)
犯罪少年が更正するか否かを,予め知ることは難しい。
「がっちり構築されたシステムとその中で棲息する者は,急激な変革を好まない。下手に弄ろうとすれば自壊しかねないからね。政治の世界も法曹の世界も,その辺は似たようなものだ」(位置 No. 2422)
日本の中で構築されたシステムの多くは硬直化しているのではないか。
成長とは醜悪なもの,脆弱なものを認識することに他ならない。この娘は同年配の女の子の何倍も人間の残酷さと愚かさと,そして哀しさを知ってしまっているのだ。(位置 No. 3325)
醜悪なもの,脆弱なものを認識しないファンタジーの世界に生き続けたかった。
「そういう輩はいつか別の場所,別の局面で後悔することになる。人の住む世界の規範は一朝一夕に変わるもんじゃない。歪んだ悦び,不健全な主義主張もいっときは持て囃されるかも知れんが,やがて駆逐され,唾棄され,そして歴史の中へ消えていく」(位置 No. 3517)
世界の規範に沿っているかどうかは,常に意識しよう。
宗教も同様です。教義の内容が過激になればなるほど,信者は公言を慎み口を噤むようになる。教えの中だけに自分の神が存在し,外の世界は異教の神が支配していると思い込むからです。(位置 No. 3827)
外の世界を知らないと,深い沼に落ちてしまう。
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