『すべてを電化せよ!科学と実現可能な技術に基づく脱炭素化のアクションプラン』(Saul Griffitth 著,鴨澤眞夫訳,オライリー・ジャパン,2023年7月24日)を読了した。
- 電力需要の増大とグリッド中立性
- 気候変動対策は 20 年先を見据える
- 約束された排出量と耐用年数
- 自由市場の限界
- 科学・技術・政策の役割分担
- 化石燃料と「最悪に意地の悪い困難問題」
- シンプルな解決策――すべてを電化せよ
- 新しい送電網の構築
- インターネット的な電力ネットワーク
- 金融装置とライフスタイル
- ガソリン税と小型車
- カーボンゼロと「ゼロ次世界大戦」
- エンジニアの役割
- 本書の論点
電力需要の増大とグリッド中立性
すべてを電化するには,電力は現在の 3 ~ 4 倍必要だ。この電気は,家庭,企業,電力会社を対等に扱う「グリッド中立性」で発電,送電,蓄電する必要がある。(p. 16)
すべてを電化するには,現在の電力系統を増強する必要がある。それには時間がかかるが,私が生きているうちにすべての電化は実現するだろうか。
気候変動対策は 20 年先を見据える
COVID では,ウィルスに 20 日先んじて対策する必要があったのに対し,気候変動では 20 年先んじて対策する必要があるのだ。どちらも事前準備と科学的根拠に基づく政策が必要な問題である。(p. 22)
20 年先の電力需要を見越して,電力系統の増強を計画すべきである。
約束された排出量と耐用年数
我々には 10 年ある,という考えは,「約束された排出量」のことを忘れている。これは,耐用年数を通して二酸化炭素を排出するインフラストラクチャに,すでに投資してしまったためにロックされている排出量のことだ。(p. 41)
電力系統の耐用年数は長い。耐用年数に満たない系統を置き換えていく必要がある。
自由市場の限界
自由市場のソリューションにどれだけ期待しても,動作の遅い自由市場に頼っていては手遅れだという事実は変わらない。(p. 46)
脱炭素化は経済だけを追求するものではない。自由市場のソリューションには限界がある。
科学・技術・政策の役割分担
各国は複雑な地球科学システムを安定化させるために終結した。科学が問題を特定し,エンジニアが解決策を生み出し,政治は適切な規制環境を整えたのである。(p. 61)
科学が特定した問題について,解決策を生み出すのがエンジニアの役割である。
化石燃料と「最悪に意地の悪い困難問題」
今回の敵――化石燃料――は,我々の既存の経済になくてはならないものである。今回の我々は,最悪のインパクトが感じられるよりずっと前に行動する必要がある。気候反応にはタイムラグがあるためだ。こうしたことから,気候変動は「super wicked hard problem (最悪に意地の悪い困難問題)」――ほとんど解決不能なタスクのための特別なカテゴリーとして定義されている問題――として描かれてきた。(p. 63)
最悪に意地の悪い困難問題に立ち向かうことに,挑戦心を持つべきである。
シンプルな解決策――すべてを電化せよ
完全な脱炭素化の本当に現実的な計画は単純だ。すべてを電化せよ,である。
気候変動を解決するのに必要な技術は,もう手中にある。また,すべてを電化した暁には,われわれは必要エネルギーを半分にできる。(p. 106)
すべてを電化するというのはシンプルな解決策だが,実現は容易ではない。
新しい送電網の構築
ここまでに示したように,アメリカを駆動する 1500 ~ 1800 GW の電気の大部分は再生可能エネルギーでまかなえる。これが現在の 3 ~ 4 倍の発・送電量となることは覚えておいてほしい。古い送電網のチューンナップでやるようなことではないのだ。21 世紀のルールとインターネット的な技術による 21 世紀の新しい送電網の構築が必要である。(p. 137)
送配電業界にいると,新しい送電網の構築は言うほど易しくないと感じる。
インターネット的な電力ネットワーク
電力の「パケット」が数百億の接続負荷の間を高速に行き交い,これらを蓄電やバランス取りのために利用できることを可能にする,同じような分散電力ネットワークプロトコルの実現こそわれわれの目標となるはずだ。このアナロジーはインターネットが純粋にデジタルであること,送電網上の電力フローの管理は個体的なパケットではなく電圧と電流の管理であることから,かなりの破綻があるが,それでも依然としてアメリカが目指すべき方向を示す北極星として適切だ。(p. 162)
インターネットのように電力フローを管理するのは魅力的だが,現実的に可能なのか疑問もある。
金融装置とライフスタイル
アメリカのライフスタイルはローンの上に構築されてきた。自動車ローンと住宅ローンはともに 20 世紀のアメリカ人の発明品だ。アメリカは,というか現代の世界は,人口の大多数が多額の資本製商品を買うことを助けるこれらの金融装置なしには今のような姿にはなっていなかった。(p. 213)
新しいライフスタイルを構築するため,新たな金融商品が生み出される可能性がある。
ガソリン税と小型車
ヨーロッパやアジアに小型でエネルギー効率の良いクルマがある理由のひとつは,高いガソリン税が運航コストを引き上げていることだ。(p. 229)
日本の軽四は,高いガソリン税を背景として成長したコンテンツである。
カーボンゼロと「ゼロ次世界大戦」
カーボンゼロの実現には,”ゼロ”次世界大戦を戦い抜かなければならない。(ゼロ次世界大戦 (World War Zero) はジョン・ケリーの造語で,経済全体の炭素排出をゼロにするための戦時努力,というわれわれのやるべきことを見事に要約しているので私も使用する。)(p. 263)
カーボンゼロを目指す戦いを戦争と捉えるほどの危機感は,まだ十分に醸成されていない。
エンジニアの役割
エンジニアなら,やるべきことはたくさんある。電化された未来の細部を形作っていく仕事に取り掛かろう。新しい送電網をデザインしよう。いろいろなものをより高信頼で頑健で手ごろなものにしよう。パフォーマンスの最後の何パーセントかを絞り出すのだ。(p. 326)
新しい送電網をデザインしようというが,具体的なイメージを持つことは容易ではない。
本書の論点
本書の論点は非常に明確だ。
- CO2 削減は待ったなしで,現在のペースでは実はまったく追いつかない。
- 使用エネルギーをすべて電気にすれば早期のゼロ排出が達成可能。
- その実現に必要なものは量産体制の構築と金融的サポート。
- これらすべてに早期の政策変更が必要であり,社会的働きかけが重要。
この 4 点である。(p. 383)
論点は明確だが,政策がこのように変わっていくかについては疑問である。
