『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』の続編ということで,『トヨトミの世襲 小説・巨大自動車企業』(梶山三郎,小学館,2023年11月30日)を読了。
「名古屋の錦に,いわゆる”夜の商工会議所”と呼ばれた名門クラブがあったんだ。そこのママが絶世の美女と評判で,当時の名古屋の財界人がお忍びで通っては,こぞって口説きにかかっていたって聞いたことがある」(56 ページ)
「夜の商工会議所」というのは,面白い表現。
「才気ある人間はもうこの国を捨てるでしょうね。残るのは何のとりえもない平凡な人間だけだ」
極端な意見だとは思ったが,的を射ていた。トップ 1 パーセントの人間はもはや日本で働くことを望まない。それがトップ 5 パーセントとなり,10 パーセントとなっていく未来を,文乃は取材を通してひしひしと感じている。(61 ページ)
日本を捨てる人が増えていけば,日本の衰退は加速する。
「考えてみい。汚い工場で,だらしない格好で仕事をして,備品の管理はめちゃくちゃ。そういう会社を買収してうちのやり方で叩き直したらすぐ生産性は上がるで。汚さやだらしなさ,いい加減さは,言うなれば伸びしろなんや」(70 ページ)
会社を買収する機会があれば,このような見方をしてみよう。
企業を的確に判断する目の確かさに,年商 10 兆円という壮大な目標を実現するために巨大組織を細部まで把握し,自分の手足のように動かすカリスマ性。織田は疑いようもなく「天才経営者」であった。
しかし,と星は思う。同時に,その天才性こそが織田電子の「弱点」なのだ。社内で行われている厳しい倹約作戦は,細部にいたるまですべて織田の指示で行われ,全グループにも徹底されていた。(75 ページ)
天才経営者そのものが弱点というのは皮肉なものだ。
「経営者なら会社にあるものすべて,いくらなのか知らんと経営できんのとちゃいますか。そんなことウチの会社なら新卒社員でも答えられますわ。コスト意識が低いと利益も出せませんやろ」(81 ページ)
コスト意識は持っておくに越したことはない。
「トヨトミがクルマを作って売るだけではやっていけなくなる時が必ずくる。つまり,製造者としてのトヨトミ自動車はいずれ衰退していく。その後は自動運転やモビリティ・サービスの時代だ。そこで先端技術に強い TRINITY がトヨトミの”本体”になり,主たる稼ぎ手になる。つまり,トヨトミは製造業の覇者から移動そのものを支配する覇者となるのだ。その時に向けて,知見を蓄えろ。この未来都市を創造した経験は唯一無二のものになる」(90 ページ)
モノ売りではなく,コト売りということか。
「たしかに手間はかかりますは。でもトップが全部チェックしていると思えば,会社の金で何かを買うことへの社員の意識は変わり,どれにいくら使っているか考えるようになる。実際,社会保険や厚生年金を会社がどれだけ負担しているか,ほとんどの会社員は知らんでしょう。自分の給与明細もろくに見んのやから。会社が使う金に意識を向ける,それはつまり一人ひとりが経営の意識を持つことや。細かく稟議書をチェックすることにはそういう意味があるんです。得られるものは意外に大きいですよ」(127 ページ)
トップが見ていると思えば,モノを買う時の意識も変わる。
「ビジネスの世界で生き抜けるのは時代に合わせて変われる者と,自分より能力のある人材をつくり,その人を信じて任せられる者だけだ。父さんの立身出世の成功体験なんて,今の人間にも,日々新たになる企業環境にも通用しないよ」(262 ページ)
時代に合わせて変わる,自分より能力のある人材をつくる,その人を信じて任せる。
ビジネスの世界で生き抜くため,やっていこう。
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