『NEO ECONOMY 世界の知性が挑む経済の謎』(日本経済新聞社,日経 BP,2020年5月21日)を読了。
「経済・政治哲学の分野についていうと,25 歳や 30 歳になってから新しい理論の影響を受ける人は多くない。官僚や政治家,さらに扇動家でさえ,目の前の出来事に当てはめる理論はおそらく最新のものではないだろう」(p. 4)
経済・政治哲学の分野は,あえて新しい理論に影響を受けてみようか。
米国の文明評論家,ジェレミー・リフキン氏は「ビッグデータを分析することで在庫を極限まで減らし,生産性を劇的に高められる」と語る。(p. 79)
ビッグデータを分析すれば,生産性を劇的に高めるための解決策が見えてくる。
産業革命以来,人類は機械化を進め,距離や時間といった物理的な制約を小さくしてきた。そして「アトム(物質)からビット(情報)へ」。マッキンゼーによると,国境を越えるデータ流通量は 05 年から 17 年までに 148 倍に膨らんだ。調査会社 IDC は 18 年に 121 億ドル(約 1.3 兆円)だった仮想現実(VR)・拡張現実(AR)の市場規模は 22 年に 10 倍に膨らむとみる。制約のない世界は一気に広がるのか。(p. 109)
大量のビット(情報)を自由自在に扱う。
「組織の形も重要だ。日本のように工業品生産が得意な国は階層的な組織を持ちやすい。完璧で良いモノを作るには何重にもチェックできる体制が向いている。しかし優れたソフトウェアを生み出すのは,次々と試作や改良を繰り返す柔軟な組織だ。その意味で米国と中国は似ている。どちらも完璧を目指すより,『まずは動くモノを作り,改良していこう』というシンプルな理念で運営されている」(マサチューセッツ工科大メディアラボ セザー・ヒダルゴ准教授,p. 142)
『まずは動くモノを作り,改良していこう』というシンプルな理念を真似しよう。
――無形資産の何に注目していますか。
「企業などの組織が蓄積してきたスキルだ。組織に固有の人的資本ともよばれ,無形資産の中核と考えられる。米アルファベットなどの IT (情報技術)企業からトップの大学に至るまで,最も大切な資産は建物や機械ではなく人の集まりだ。人々が刺激し合うなかで新しい技術やアイデアを生み出し,スキルを高めていく過程に注目している」(プリンストン大 清滝信宏教授,p. 160)
人的資本を高めていくことで,組織ができることが増える。
「現状の教育システムは若いときに訓練したスキルを一生使うという考えで築かれてきた。だが今は 5 ~ 10 年ごとに新しいスキルを学ばないといけない世界だ。政府にとっても企業にとっても難しいが,新しいスキルを習得しやすい教育に変える必要がある」(ボストン大 ジェームズ・ベッセン教授,p. 202)
新しいスキルを学ばなければいけない世界だから,リスキリングが注目されている。
「500 人の生徒を 1 クラス 50 人に分けて 10 人の平均的な教師が教えるよりも,1 人の最優秀の教師が 500 人を教えた方が生徒の受ける恩恵は大きい。技術の力を借りれば 500 人の生徒を教えるのは可能で,効率もよい。弁護士や医師といった職業でも少数のスーパーマンに仕事が集中する構図は強まるだろう」(シンガポール国立大 スミット・アガルワル教授,p. 225 - 226)
最も優秀な教師が教えた方が効率がよい。教師不足も技術の力で解決できるのではないか。