2020年11月25日作成
『ワークマンはなぜ2倍売れたのか』(日経クロストレンド記者 酒井 大輔,日経 BP,2020年6月29日)を読了。
「松下幸之助氏も言っているが,1000億円の企業を経営できる人材を育てるのは難しいが 100 億円の企業を経営できる人を 10 人育てることはあまり難しくない」(土屋 嘉雄 氏,p. 13)
100 億円の企業と 1 000 億円の企業を経営するのに,どんな違いがあるのか興味がある。
2014年,ワークマンは大きな一歩を踏み出す。土屋氏が中心となって「中期業態変革ビジョン」という名の 3 箇条を社内外に宣言したのだ。(p. 28)
1)社員 1 人当たりの時価総額を上場小売企業でナンバーワンに
2)新業態の開発
3)5 年で社員年収を 100 万円ベースアップ
- 「客層拡大」で新業態へ向かう
- 「データ経営」で新業態を運営する準備をする
新業態の開発の具体的な一手として,「データ経営」を選んだのは興味深い。
「寺島さん*1は思想家だから,100 年単位で物事を考える。19 世紀はこういう時代で,20 世紀はこういう時代で,21 世紀はこうなると提言する。19 世紀から始まる会社の文書なんて,たぶん他にない」(土屋 哲雄 氏,p. 29)
100 年単位で物事を考えた社内資料を作ってみるか。
「コンサルをやって一番よかったのは,我慢する鍛錬ができたこと。これまで全部自分一人で改革しようとしてきたが,人を説得して改革してもらうという所作が身について」(土屋 哲雄 氏,p. 50)
人を説得して改革していったほうが,インパクトははるかに大きい。
「システムは『構想 1 年,作って 1 年,使って 6 年』。だから,CIO は絶えず 8 年先を見ているんですよ。社長や CFO は意外と四半期決算や当期利益ばかりを見ているが,CIO だけは未来を考える」(土屋 哲雄 氏,p. 62)
8 年先を見据えたシステムづくりを構想する。
「ワークマンのデータ活用の原則は『浅く広く』。知識が浅い分を衆知という広さで補う。皆で考えて進化させていく。AI のようなスーパーパワーではなく,普通の人の知恵を集めて経営していくのが理想。それなら,むしろエクセルのほうがいい」(土屋 哲雄 氏,p. 71)
AI やビッグデータに飛びつき,新しい価値を探すよりも,社員全員がデータを活用できるようになったほうが,高い確率で価値を生み出しそう。
「社内の価値観が変わったので,分析ができる人がかなりいいポジションにいくようになった。今まではコミュニケーションが得意な人が部長になっていた。店長に顔が広いとか融通が利くとか。今は違う。最適在庫をどう表現するかなど,データを分析できる人が部長になる」(土屋 哲雄 氏,p. 72)
データ分析できる人が,社内で評価されることで,さらなるデータ活用につながる好循環が生まれそう。
ワークマンには根っからのエンジニアはいないが,データ分析講習などを通じて,「営業担当をずいぶん鍛えた。最終的に仕様書だけを書いて,超丸投げするにしても,やっぱり自分で原理が分かっていないといけない。何をつくりたいかだけははっきり言えるようにと指示している。自分で模擬環境をつくって実験してみて,うまくいったら,初めてシステム化している」(土屋 哲雄 氏,p. 83)
システムを構想するとき,システムで何をしたいのかをはっきり言えるようにする。
ローマは 1 日にして成らず,と言う。情報システムも,一朝一夕で完成しないのは,システム統合に 19 年もの歳月をかけた,みずほ銀行の例を見ても分かる。「完璧を追い求めすぎると駄目なんです。それなのに,IT を過信しちゃう経営者が多い。DXとかバズワードばかりに乗っかって,揚げ句の果てに思い通りに実現できないから,CIO を何人もとっかえひっかえする。これが一番悪い。『IT は苦手だから全部任せる』という経営者のほうが正直で失敗しない」(土屋 哲雄 氏,p. 85)
システムは急激には変わらない。
少しずつでもいいから,よくしていく。
「ワークマンに入ってから勉強したことは 1 個もない。当時は,本気で勉強していたので,やりたい絵は結構描けていた。前任者もいなかったので,その絵の通り描いたら,その通りになった」(土屋 哲雄 氏,p. 103)
やりたい絵を描くためには,私自身,まだ勉強は必要だな。
目標は,販促費を使わなくても,商品を売り切ること。なぜなら,ゆくゆくは Amazon しか残らない時代が来ると本気で考えているからだ。「販促費を使っているようじゃ,Amazon には到底勝てない」。これは,土屋氏の口癖でもある。(p. 152)
Amazon に勝つためには,販促費は足かせにしかならない。
Amazon は,その圧倒的な規模とスピード力で,世界の小売りをのみ込んだ。何もせずとも消費者から選ばれる「EC(電子商取引)の巨人」と対峙するには,打倒 Amazon のスローガンを掲げなければならない。それは 3 つある。(p. 212)
Amazon と同じことをやっていても勝ち目はないから,強みと弱みを見極めた戦略(スローガン)が掲げられた。
ワークマンが変えたこと(pp. 252 - 257)
- オペレーションエクセレンシーからプロダクトエクセレンシーの SPA 企業へ
- 「前例踏襲」の経営からなんでもデータを見て変えていく経営に
- 「本気の経営」――言ったことは必ずやるという,すごみを見せる
- トレードオフ経営――頑張る代わりに何かを捨てる
トップダウンではあるが,データを見て変えていく経営には,少しずつだけど変わりつつある。
ボトムアップでデータを見ていければ,さらにインパクトは大きくなるだろう。
ワークマンが変えなかったこと(pp. 257 - 262)
- 標準化経営
- ローコスト経営
- やらないことが決まっている経営
- ステークホルダーは長期固定「親友を裏切らない」
私が勤めている会社の中にも,変えてはいけないことがある。
長期間の在宅勤務,巣ごもり生活は,一人ひとりの価値観を変えた。それは,ワークマンも同じだ。新型コロナの感染拡大を受け,ワークマンが全社員に発信したのは,「不要不急の仕事をしない勇気を持とう」というメッセージだった。(p. 265)
長期間の在宅勤務,巣ごもり生活で,価値観が変わった人と変わらない人がいる気がする。
私は,価値観が変わった方でありたい。
「コト(体験)にお金をかけるには,買うモノを安くしなきゃいけない。可処分所得は一緒だから,コト消費が進めば,それだけモノへの消費は減る。だから,デザイン的に見栄えがして,コスパがいいものをつくって,じっくり待っていればいい。それで時代を先取りできると思ったんですよ」(p. 282)
ただ,安いだけでは売れなくなる。
なぜ,それが欲しくなるのかを売り方を工夫すれば,ワークマンのように 2 倍売れるかもしれない。