2020年4月14日更新
『鉄塔徹尾 プロ*1が語る送電用鉄塔のすべて』(電気新聞 編)を読了。
- 【歴史と基本】長年の風雪に耐える設計を/”トラス構造”で「軽く」「強く」
- 【部材と組立】費用と地形で部材使い分け/景観や保守も設計で考慮
- 【設計その 1】ルートに応じて鉄塔を設計/”立体構造”への移行必要に
- 【設計その 2】”立体解析”でより精度を向上/”基礎不同変位”も評価可能
- 【今後の課題】熟練作業の自動化も一案/抜本的な発想転換必要に
「すごいなと思ったのは,鉄塔の足元を蹴るだけで,その反響からボルトの締め付けが緩い場所などを言い当てる親方がいた。五感を自在に使えるのも能力だと思う」
色々な構造の鉄塔があるのに,本当に鉄塔の足元を蹴るだけで,ボルトの締め付けが緩い場所なんてわかるのか。
「設計では,立体的骨組みである鉄塔を平面図,いわば 2 次元で捉えて応力解析している。これだけコンピュータが進んでいるのに,まだ平面解析かというのが私の問題意識。鉄塔は立体的構造物の象徴のような存在だ。交流のある大学の先生からも『送電鉄塔の設計はまだ 2 次元の世界なんですね』とよく指摘される。3 次元でその姿を効率よく把握しながら解析することが必要」
3 次元で図面を描き,そのデータを活用して応力解析するのが理想。
とは言え,3 次元のデータを取り扱うのは,色々大変だから 2 次元に簡単化しているのだろう。
「国内では古くからクレモナ法(静定トラス部材力の図式解法)を使った平面解析で応力を算定し,鉄塔の部材サイズやボルトの径,本数などを決めている。クレモナを使って鉄塔にかかる応力を図示すると,強い力がかかる部分は長い線で,弱い部分は短い線で表すので,どこに,どの程度の力がかかるか一目で分かる」
応力計算の結果(応力)を見える化することに意義を感じる。
応力の強弱を見て,鉄塔の構造を深く理解できそう。
「かつて年間で 25 万トン発注された鉄塔は今や 5 万トン弱。約 5 分の 1 まで減少した。電力会社ばかりでなく,メーカも衰退する領域には注力しない」
高経年の鉄塔を建て替える需要で,どこまで鉄塔の生産量は増えてくるか。
「今までと同じ考えでは『延長線上の答え』しか出てこない。抜本的に発想を変えることも時に必要と思う。鉄塔は英語でスチールタワーだが,それは部材に鋼材を使っているから。鋼材ではなく軽い繊維系の樹脂を材料として使い,溶接ではなく一部は接着剤で接続する。従来の発想では出てこない,こうした技術は興味深い。すでに国内外の一部では検討が始まっている」
鉄ではない素材でつくられた「鉄塔」を見てみたいが,構造は似たりよったりとなってしまうか。
「送電(鉄塔)の仕事について若い世代に関心と興味を持ってもらうことに尽きる。どの分野もそうだがそこに創造や発展がなければ人は集まらない。魅力と面白みだ。その意味でも鉄塔の世界には技術革新が必要と思う」
業界に若い世代を取り込み続けることで,代謝を維持していく。