『大局観――自分と闘って負けない心』(羽生善治将棋棋士,角川oneテーマ21,2011年4月20日 4版)を読了。
将棋界には,「反省はするが,後悔はしない」という言葉がある。(p. 22)
反省して終わりにする。
スマートではないかもしれないが,もがき続けて習得したものは忘れにくい。というより,忘れることができない。泥臭く頑張るのは現代にはマッチしにくいのかもしれないが,それでもある部分においては,なくてはならないことなのではないかと考えている。(p. 31)
悩みながら,自分の力を高めていく。
たまたま,うまくいったことは,すぐに忘れてしまう。
「大局観」とは具体的に,全体を見渡す,上空から眺めて全体像がどうなっているかを見ることである。(p. 60)
俯瞰する,バルコニーに立つ,という意味のこと。
全体を見ることが大事。
時間の感覚が残っている時は,浅い集中だと思っている。対局では「忘我の時間」といった充実感を味わうこともしばしばだ。(p. 63)
「気付いたらこんな時間だった」ということは,深い集中ができているということ。
時間を忘れるくらい集中してみたい。
なぜなら,毎日毎日,黙々と練習を積み重ねていくと,どうしても決まり切った枠組みのなかに入り込んで煮詰まってしまったり,息苦しくなってきたりするからだ。(p. 78)
いつも同じことを繰り返すのではなく,違う刺激が必要。
いつもと違う場所・練習方法を取り入れてみる。
結局,勝負事における最善手は,「負けたくなければ勝負をしないこと」。これに尽きるだろう。(p. 103)
勝ち続けることが大事ではない。
負けて学ぶことのほうが多い。
2003 年から 2004 年にかけて,私は次々とタイトルを奪われて,一冠になってしまったことがあった。
分析してみると,自分の感覚や将棋観が相容れない戦法が流行し,それに自分が対応できなかったことが敗因だった。つまり,それまでの自分のやり方ではダメだということだ。(p. 107)
それまでの自分のやり方をブラッシュアップしていくことができたからこそ,今日まで羽生さんは勝ち続けている。
2018 年 12 月,羽生さんはついに無冠となった。
今後,羽生さんの巻き返しに期待したい。
頭の中では記憶は時系列では並んでいないのだから,ノートを残したり,記録を残したり,書物を残すのはとても貴重な記憶の整理法になるわけである。(p. 114)
コンピュータに入力するよりも,ノートに書いたほうが記憶に残りやすい。
時間的な制約はあるが,なるべく紙とペンを大事にしたい。
誰もが正当なことをしているにもかかわらず,社会全体で見た場合には,芳しくない状態を生み出している。この状態は,「合成の誤謬」と呼ばれる難題で,原因を特定できないだけに始末がわるいのだ。(p. 140)
日本人は同質性を好むため,同じ方向(ときに悪い方向)に進むことがあるのだろう。
日本人の異端者は大事で,異端者がいれば,方向をちょっとだけ変えることができるかもしれない。
『ブラック・スワン』のなかでタレブ氏が指摘しているように,私達は,自分で思っているほどには,ものごとをよくわかっていないのだろう。(p. 217)
ものごとをわかっていないことをわかることで,ものごとを知ろうとする欲求が生まれてくる。
「三手の読み」by 原田泰夫九段
一手目は,たくさんある自分の選択肢のなかからベストの手を選ぶ。
二手目は,たくさんある相手の選択肢のなかから,指されたら自分がいちばん困る手を選ぶ。
そして三手目で自分にとってベストの手を選ぶ,ということなのだ。(p. 222)
自分によって都合良く考える勝手読みにならないための至言。
まずは三手を読むことから始めたい。
私はこれまで,何と闘うという目標を立ててやってきていない。
信じていただけないと思うが,常に無計画,他力志向である。
突き詰めると「結論なし」となる。人生は突き詰めてはいけないと思う。何のために闘うのかは,七十歳になってからじっくり考えたいと思う。(p. 234)
七十歳になってから闘いを始めるという意味か,それとも七十歳でこれまでの闘いを振り返るという意味なのか興味がある。
第一章 大局観
- 検証と反省
- 感情のコントロールはどこまで必要か
- リスクを取らないことは最大のリスクである
- ミスについて
- 挑戦する勇気
第二章 練習と集中力
- 集中力とは何か
- 逆境を楽しむこと
- 毎日の練習がもたらす効果
- 教える事について
- 繰り返しの大切さ
第三章 負けること
- 負け方について
- 記憶とは何か
- 検索について
- 知識とは
- 直感について
- 確率について
- 今にわかる
第四章 運・不運の捉え方
- 運について
- ゲンを担ぐか
- スターの資質
- 所有について
第五章 理論・セオリー・感情
- 勝利の前進
- 将棋とチェスの比較
- コンピュータと将棋
- 逆転について
- ブラック・スワン
- 格言から学ぶこと
- 世代について