長幼の序は寺の鐘のように重い(p. 56)
信長の生年月日も,この理によって書き換えられたか。
心はかたちを求め,かたちは心をすすむる(p. 62)
信長に教えられたこと。「この禅の心こそ人を動かす極意」
その血や情のしがらみ一切を棄て去るという果断な信長の性格を形成したのが,母の愛を知らぬ幼い頃の吉法師の悲しみの結果だということ。(p. 95)
血や情のしがらみを棄て去るには,愛を知らないことが条件。
中世までの女は,仏教の教えでは罪障深く,成仏できない存在だった。戦国時代には男に運命をもてあそばれるだけの人質の存在にすぎなかった。それがどうだ。
今は男と対等に,いやそれ以上に,このように渡り合い,性の享楽を恣にしている。(p. 214)
茶々とて例外ではないはず。男の運命をもてあそぼうとしたか。
この戦いで命を失う者については,たとえ死ぬとも三日以内によみがえり無上の楽を受くるべし。
それは人類愛を自我するキリスト教の教えから逸脱した,殺人と狂信集団の首魁の言葉でしかない。(pp. 365-366)
狂信集団をさらなる狂気へ導く言葉。
まして,騒乱の戦国では,この脇役あってこその英雄という事例は,あまた潜んでいる。それが歴史の「ほろ苦さ」であり,「隠し味」であり,また歴史小説の醍醐味であろう。(p. 376)
別の長編小説で素通りしていた脇役にスポットライトを当てた作品。